仙田学_ツルツルちゃん2 _01_cover_01イケメンチンドン屋の、その名も池王子珍太郎がパラシュート使って空から俺の学校に転校してきた。クラスのアイドル兎実さんは秒殺でイケチンに夢中。俺の幼なじみの未来もイケチンに夢中、なのか? そんでイケチンの好みの女の子は? あ、俺は誰に恋してるんだっけ。そんでツルツルちゃんてだぁれ?。

早稲田文学新人賞受賞作家にして、趣味は女装の小説ジャンル越境作家、仙田学のラノベ小説!

by 仙田学

 

 

 

 

プロローグ シンデレラのウィッグ

 

試着室のカーテンが開くにつれて眩いばかりの光が漏れてきた。

店じゅうの店員や客たちが、いっせいに振り向き、目を見開いてため息をつく。

試着室からでてきたのは、輝くような美少女だった。

すらりと伸びた脚。

純白にピンクの花柄の散ったワンピース。

儚げにくびれたウエストと、華奢な体の線。

切れ長の大きな目が戸惑ったように瞬きを繰り返していた。

桜の花びらのような唇が、もの言いたげに開いては閉じる。

白い顔を栗色の豊かな髪がふちどっていた。

上品な猫の毛のように艶やかで、窓越しの光に柔らかく輝いている。

「これ…どうかな?」

花柄ワンピースの美少女は、試着室のなかに突っ立ったまま、おれの目をじっと見つめ、首をかしげた。

「どうって…よく似合ってるよ」

「ほんとに。じゃあ好き?」

「そうだな、好…え? え?」

「好き? 好きじゃない?」

切れ長の大きな目に捉えられたまま、おれは口ごもる。

似合うか似合わないかってことで言えば、そりゃ似合ってる。それも、抜群に似合ってる。高校球児にユニフォームが似合うように、相撲取りにマワシが似合うように、こいつにはこれ以外ありえないってくらい、似合いまくってる。

だが。

それがおれの好き嫌いとなんの関係があるんだ?

高校球児も相撲取りも、誰かに好かれるためにあの格好をしてるわけじゃないだろう。必要があるからあの格好をしてるわけで…。

「じゃあいい」

ほんの一瞬、表情を翳らせたかと思うと、美少女は肘をあげ、首の後ろに両手をまわした。

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「お、おい!カーテン閉めてから」

試着室はまだ全開だぞ!

店じゅうの視線もおまえに釘づけになったままだ。

待て! 脱ぐな! 脱ぐなー!!

おれの心の叫びもむなしく、美少女は背後で動かしていた手を前にまわした。

美少女の手にだらりと垂れさがっているのは、花柄のワンピース…ではなく、

柔らかで艶やかな、豊かな栗色の、

ウィッグだった。

「………………っっ!」

息を飲む音が、店内を走る。

ウィッグを外した美少女は、さらに輝かしい光に包まれた。

というより、光を放っていた。

その頭は、つるっつるの、

 

スキンヘッドだったのだ。

 

「これは?」

スキンヘッドの美少女が指さしたのは、真っ赤なメッシュの入った、ロングウルフだった。

「ちょっと……校則違反じゃね」

「じゃあこれは?」

「黒髪ロングの前髪ぱっつん! いい! けど……誰かとキャラがかぶっちゃうかなあ」

 

「これは?」

店内にぎしりと並んだウィッグの山を、スキンヘッド美少女は次々と指さして歩く。

「そ、そうだな。肩くらいまでのストレート。清潔感あっていいんじゃないか」

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「好き?」

「ん、んーどうだろ……」

「やっぱりやめる」

店員がちらちらと向けてくる視線にいたたまれなくなり、おれは口を開く。

「いま思ったけど、これってあれみたいじゃねえか。シンデレラで、靴を探すシーン」

「シンデレラは靴を失くして帰る。そのあと、王子がその靴に合う足を探してまわる」

「似てるよなっ」

美少女はおれのほうを振り向いた。

飼い主とはぐれた犬のような、物悲しい目つきだった。

「私はここにいて、自分でウィッグを探してる。ぜんぜん違う……」

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やがて、奥の棚の最下段でひっそりと埃をかぶっていたウィッグを、スキンヘッド美少女は手に取った。

「おお、それって」

スキンヘッドの美少女が頭に装着したのは、

重めのボブカットのウィッグだった。

輪郭を重くふちどる黒髪は、顔の小ささや、顎や首の線の細さをより強調し、切れ長の目をいっそう大きく見せている。

似合ってる。

このウィッグ専門店にあるウィッグのなかで、いちばんこいつに似合うと思う。

けど、

「前と一緒じゃねえか」

重めボブカットに花柄ワンピースの美少女は、小さな女の子のような仕草で、こっくりとうなずいた。

「これでいい」

 

 

少女にはわかっていた。

王子様のように靴を探してくれなくてもいい。

ただそばにいてくれるだけで救われる。

だが、最後の機会は、すぐに終わってしまった。

こんなことは、もう永遠にないだろう。

 

……かくなるうえは。

少女は決意を固めたのだった。

(第01回 了)

 

* 『ツルツルちゃん 2巻』は毎月04日と21日に更新されます。

 

 

 

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