小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第014回 もしも世界中の勘違いが犠牲フライだったなら/死体の石を思い出と呼ぶ理由について/トマトを食べる話、もしくは愛してると言うだけの話』をアップしましたぁ。ショートショート小説のライティング技法に関しては小松さんはほぼ完全にできあがっていますね。

 

 テーブルの上に置いているメトロノームはいつかの誕生日に彼女が送ってきたものだった。カツン、カツンと足を鳴らしている。秋がゆっくりと歩いてくるかのように、リズムを合わせるように、刃の柄に近い部分でトマトを刻んでゆく。まな板の上に8個の赤い三日月ができた。

 日が射した。

 「ドレッシングはかけないの?」

 「かける必要があるのか?」

 食器棚は何も喋らなかった。

 流し場は押し黙っていた。1畳分のクローゼットは口を閉じていた。白樺の机は無言のままだった。会話は月曜の雨降りのように限定されていた。レースのカーテンが揺れていた。ノブアキはトマトを一切れつまむ。

 「うまい」

 「いいなぁ」

 「いいだろ」

 いいなあ、ともう一度ナミは呟いた。

 

書くことの愉楽が読むことの愉楽にそのままつながっているような文章です。時間をかけ練りに練って素晴らしい作品を書こうとしている方も多いと思いますが、〝ある書き方〟をつかんだら、もう限界までとことん大量に作品を書くのはとても重要なことです。書けば書くほど文章はこなれてくる。またアイディアなどすぐに尽きてしまいますから、書こうと思って書くところから文章のリズムは生まれてきます。

 

小松さんの連載タイトルには『僕が詩人になれない108の理由』が入っていますが、これは象徴的かもしれない。仮に詩人を天からインスピレーションが降ってくるまでボーッとしている人種だとすれば、小松さんはブルドーザーだな。詩的な文章ではあるんですが、力強く大地を切り開いて均してゆく小説家の文章です。

 

 

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小松剛生 連載ショートショート小説 『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第014もしも世界中の勘違いが犠牲フライだったなら/死体の石を思い出と呼ぶ理由について/トマトを食べる話、もしくは愛してると言うだけの話』 pdf ■

 

小松剛生 連載ショートショート小説 『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第014もしも世界中の勘違いが犠牲フライだったなら/死体の石を思い出と呼ぶ理由について/トマトを食べる話、もしくは愛してると言うだけの話』 テキスト ■