偏態パズル_第78回_cover_01偏った態度なのか、はたまた単なる変態か(笑)。男と女の性別も、恋愛も、セックスも、人間が排出するアノ匂いと音と光景で語られ、ひしめき合い、混じり合うアレに人間の存在は分解され、混沌の中からパズルのように何かが生み出されるまったく新しいタイプの物語。

論理学者にして気鋭の小説家、三浦俊彦による待望の新連載小説!。

by 三浦俊彦

 

 

 

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■ 「いま穿いてるパンツください」って言われたらどうする?

 ってお題だったんですよ。

 まあ、ひとりの子が顧客に毎回毎回そういうこと言われてたという話が皮切りで。

 どうする?とは、いくらならあげる?って話で。

 ちなみにその子は、「最近は1万出すからください、とか土下座」までされるんだそうで。

 土下座しときながら1万ってみみっちい感じだと思ったけど、その子は「1万なら……」とか一瞬割り切りかけたけど、やめたと。言われ続けてるけど、躊躇い続けてると。

 ――ていうか、ストッキングならまだしもパンツで1万はないよねえ。そういうお願いはブラジャーかストッキングから始めるのが礼儀ってものよねえ。

 とか盛り上がって、ともかくその子の現状は「倫理的に悪いとは思わないけど生理的にあげられない」というわけ。

 理性的に考えて、1万と古パンツを交換ならはっきり得なわけで、じゃあなぜ理性で割り切れないのかと。

 生理的……。堕落しそうだからってこと? でも昔ブルセラとか流行ってた頃ああいうの売ってた子たちべつにほとんど堕落なんてしてないでしょ。今ごろいいとこの奥さんに収まって優雅にパートにでも出てるでしょ。

 その子いわく、堕落とかじゃなくて、親密な関係ぽくなるのがウザいんだと。

 まあ普通そうだよね。でもそういうやつって誰にでも言ってるに違いないんで、親密はちょっと自意識過剰かなと思うけど、でもまあへいへいと従順に脱いでやって喜ばせるのも癪だよね。喜ばせるってとこに一番抵抗あるよね。

 でも1万はなんだかんだ言っても儲けでしょ。でも生理的に受け付けない。これって女性特有の感覚なのか?ってなって、ひとりが彼氏に電話して急遽呼び寄せたわけですよね。

 彼氏っていっても女ばかりの話の輪に気軽に呼べるくらいだからなんかマンネリなというかもう別れかけてるというかはじめっからただの飲み友というかそんなまあ軽~い感じなのにやや暑苦しい、まあこういう話には典型的なサンプルとしてよさそうかな系のプチマッチョ。

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 がすぐやってきて、

 「俺なら!」って、まだ具体的に質問してないのにもう俺ならかよ(笑)、もちろんみんな「あなただったらパンツくれと言われてどうするのか?」を男に聞くために呼んだので、話の早い便利男なのでした。

 「1万~~?とかいって渋って、恥ずかしいからとかどうのこうのって値を吊り上げていくかな」

 わかりやすすぎる。ってこいつ待ってる間にきっとこう言うよってみんなで話してたそのまんまだし。

 まぁなんというか男ってわかりやすすぎ。パンツに1万出そうとするやつに値段交渉するやつに。

 ていうか「パンツください」って言ってくるのが男なのか女なのかすら状況設定してないうちに。一体どっちの設定で言ってるんだろうこやつは。

 それと自分が男としてって設定なのか、もし自分が女だとしたらって設定なのか。それはっきりしてないでしょっての。見切り発車男。さぞ早漏男。

 かなと思ってたら彼氏ニヤついた軽薄顔のまま「相手が男だったらンなもん1万でも5千でもさっさとくれてやるけどね。もし女でそう言ってくるのいたら――女の下着フェチって珍しいでしょ、たぶん。少しずつ値段を上げて楽しみますよ。楽しませてもらいますよ。むこうが下着フェチならこっちはオークションフェチ。下着フェチフェチ。でもそんな女おらんよなあ」

 ウームなかなか侮れん。しかも息つく暇なく「で問題は俺がもし女だったら、だよねえ」 てわけで彼氏意外と頭いいのよ。まあ男は妄想に長けているだけってのが後でみんなの結論だったけど。とはいえそいつ、私らにとっては意外なこと言い始めるのよ。いや、意外じゃなかったことになぜ私ら気づかなかったかな的意外さなのよ。「俺が女だったら1万なんて冗談じゃないね。とにかく釣り上げさせてもらいますよ。最低でも5万ですね」

 やっぱ女である方が値段高いのね、と普通に聞くと、

 「当然。こっちが男なら5千円でも3千でもくれてやる。女なら5万でも渋ってやる。攻勢型セクハラ防止策だな。相手が渋るたびに値段が高くなってくってわけ」

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 ふ~ん。てことは、男って、風俗に2万とか3万とか払うとき、得したって思ってるわけね。たった3万で妥協させたら男の勝利だと。

 「まあそう。俺が女だったらパンツ1枚に10万円の値札付けてやる」

 10万じゃ買う男いないでしょ、よっぽど惚れられてたら別かもだけど。

 「だから売る気なしってことですね。俺が女なら。10万~~、とか男が渋ったら『じゃこれからはパンツの話しないでね』って言って終わり」

 なんかこの男、女に幻想持ち過ぎちゃう?って目と目で私ら突っ込み入れてたわ、女どうしで。彼氏そんなことにおかまいなく女の輪の真ん中で「しかし……」自棄にマジメに考え込み「……10万出すと言ったらだ、むこうが。問題は」

 そうそう。そうなのよ。さあそれでどうする。さすがに……

 「断れないよな。うん。10万だったら仕方ない、くれてやるよ、パンツを」

 こやつの話の展開が意外にも意外だったのはこのあとですよ。なんでこんな展開が私らにとって意外だったんだろう。

 「だけどすぐ脱いで渡さなきゃいけないんだよね。その場で」そういうこと。

 「その場は恥ずかしいよな。俺が女だったらね。でも10万だからね、しゃあないこうするな。脱ぐ前に指で肛門をパンツ越しにグリグリグリグリグリーーっと揉んで、しっかり指食い込ませて揉んでるとこよぉーく見せてから渡すな」

 え? どして?

 「パンツがクサかったら恥ずかしいでしょ!」

 ほんとに恥ずかしそうに怒鳴るんですよ暑苦しい男が。

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 「パンツがクサかったら恥ずかしいよもう。恥ずかしいから隠したいでしょ、グリグリやっちゃえば臭いのが当たり前になるから、もう恥ずかしくないよね」

 え…… よけい臭くなってよけい恥ずかしいのでは…… とはもちろん思いませんでしたね、むしろああそうかと。しかし臭いに思いを馳せる子は一人もいなかったなあ。私らの話は表面的だったなあ。

 「ナチュラルで臭かったら恥ずかしいでしょ。ウンスジ付いてたりした日には死にたくなるよね。よりによってパンツフェチ相手にそんな恥ずかしい思いしたくはないよね。でグリグリやってしまえば、どんなに臭くても言い訳が出来る。堂々としてられるんで」うんうん。

 それはないよ、それな臭いの要らないよ~、ッて言われたら?

 「そうはならんでしょ。クサい方が単純に嬉しいでしょ、フェチは。大体いきなりパンツ欲しがるなんて変態の中でも低レベルの方だから、『自然状態でのニオイがほしかったのに』なんて真っ当な苦情は思いつきもしないはずだ」

 なんか喋り方もだんだんインテリになってきて。でもフェチにレベルの高低あんの?

 「そりゃあるでしょ。激ヒクでしょそいつは。最初はブラジャーとかストッキングからお願いするのが礼儀でしょ。いきなりパンツってのはねえ」ここは彼氏がここへ来る前の私らの会話そのまんまだったので当事者の子も激しく頷いておりました。あ、「子」とか言ってきたけどパンツお願いされた体験主は四十ちょいのユースキンおばさんなんですよ。今は美容と健康を売り歩いてるけど女子高生時代はブルセラにブルマ売ったこともあって。なのに今はダメって、複雑なもんですよねえ。

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 パンツさえあげれば健康食品の売り上げ激増なんだそうですが。枕も要らない枕営業。

 「グリグリで、10万はキッチリいただきますよ。約束だから。たとえ相手の野郎が高レベルフェチで、『そんなグリグリしちゃった人為的パンツは要らん』とかゴネたら、レイプで訴えてやる」

 もしかしてこやつ自身がこう見えてフェチ? このエセ体育会系が? 人は見かけによらない、というかフェチの裾野は見かけも何もない……。

 「男である自分としてはパンツぐらい3千円でもくれてやるが、自分が女だったらと想像するとやはりねえ、可能な限り高く売りつけてやらないと気がすまない感じがするよねえ。どうしてかなあ。あんたらも『自分が男なら、売ってやるよ、いくらであれ金くれりゃ』ッて感じじゃないですか?」

 う~んと女性陣顔を見合わせましたが。

 「まあ男にはそういう需要は来ないんだけどね。ホモホモな友だちいっぱいいればパンツせがまれることとかあるんですかね?」って。そう言うの。

 そこで語り手の女性看護師の後ろで「ハッ!!!!!!」と背筋を伸ばした初老の壺絵師が、

 「ホモダチだ? パンツだ? なにを言ってるんだね! どんなレベルの話をしてるんだ我々は! 先の大戦中はだな、ニューギニアやフィリピンにてホモでもない童貞たちが、パンツどころかその中身のまた中身の、人糞を食って生き長らえていたのだ! 人糞も人糞、XX糞など夢のまた夢、XY尽くしの、栄養失調のXY糞だけをだ!」

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 一同、ハッと目が覚めたように背筋を伸ばす。

 みな、男も女も、部屋中みんなそろって、椅子にかけている者も床に座っている者も、同じ姿勢で尻に手を伸ばし中央に指を突き立てて、

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり…………

 ズボン越しにスカート越しにパンツ越しに、グリグリ揉んでいるのだった。

 覚醒の先鋒となった壺絵師の指も例外ではない。わが尻から手を引っこ抜きながらさらに声張り上げて「密林の中で毒虫に刺されながら、敵ときちんと銃撃戦をするなんて幸運にも恵まれぬまま、飢えに苛まれてXY肉とXY糞を天秤にかける毎日。われわれは……」

 やや後方に腰掛けて聴衆的に溶け込んでいた印南哲治もわが肛門のヒリヒリを噛み締めながら(……いかんな……没入の傾向が強い……)

 

 というふうに――「XX糞」という言葉が出たところで――みな夢から覚めたように我に返って、金妙塾勉強会の最中だったと超覚醒的に思い出すのだった。

 おろち談議がこのように必ずしもわき道にそれているわけではない場合でも、屁やパンチや肛門といった穏健レベルのおろち度で和み系低空飛行が続いた場合、ふとXX糞とXY糞のペアが想起され、その刹那全員背筋を鉄板のように伸ばして本筋のおろち談議的ハードルを改めてまたぎ続ける初心へと戻るのだった。

 君たち和んでいる場合ではありませんよと警告されたかのように。やがて何かが来ますよと予告されたかのように。この覚醒的瞬間のテーマ、世界大戦テーマというのは、やはり印南哲治の達人波動が微妙作用した結果だという現正統解釈についてはすでに触れた。ちかぢか何が起ころうが、君たち、戦争に比べれば……

 という「布石」であったのだと。

 なるほど内臓や肉片が飛び散る戦場の修羅場に比べれば何事も……。

 

 なお、この日の金妙塾勉強会で語られた話の中に登場した「黒一点彼氏」は金妙塾と生身で接した可能性があったかなかったか、おろち史年代記に登場する実名人物のうち誰かとはたして同一人物であるのかどうかが、目下おろち学最前線の枢要設問となり始めている。

(第78回 了)

 

* 『偏態パズル』は毎月16日と29日に更新されます。

 

 

 

 

 

 

 

天才児のための論理思考入門  下半身の論理学