純文学ホラー作家、遠藤徹さんの新連載小説『血みどろ博士』(第04回)をアップしましたぁ。今回は血みどろ博士と人食い牧師の対話です。実にスリリングな内容になっています。

 

 「わかっています。わたしに家族があったとしたら、まっさきに連想すべきは、わたしがたしかに人を食ったことがあるような気がしていたというあの台詞です。とすれば、わたしはこの部屋であの肉のかたまりより前に、誰かほんとうの人間を食った可能性があるということになります」

 「そう、なりますかね」

 困ったことになったと博士はためらいながら相槌を打つ。このままでは、事態はかなり面倒な方向に流れて行ってしまいかねない。

 「なりますとも。となれば、わたしが食ったのは家族だったことになる。ああ、なんてことだ。わたしは食べてしまったのだ。妻をそして子供たちを」

 「いや、興奮なさらないでください。これは単なるつくり話にすぎないのですよ」

 「無駄ですよ、博士。そうやって、わたしをごまかそうとしても。最前、わたしたちはさんざん話し合ったではないですか。わたしたちに何もない以上、わたしたちにはわたしたちの物語をつむぐ権利があると。そしてこれはまさに、逃れようもなくわたしの物語であり、語ってしまった以上、物語はその内部へとわたしを引きずり込む。その物語が、わたしにとってはゆるぎない事実と化してしまうのですよ」

 

『血みどろ博士』は主人公が何一つ自分が置かれた状況について、また自分自身について、わからない状況で始まります。それは書かれた文字によって状況が生じ、主人公たちの内面が生じることを意味します。その意味で『血みどろ博士』は作家が書いている筆の先から世界が生まれてゆくエクリチュール小説です。

 

石川のなんとなくの勘ですが、遠藤さんは軽い気持ちで楽しんで『血みどろ博士』をお書きになったように思います。でもそういう時って傑作が生まれやすいんだな。これに対し、作家がすごく思い入れのあるテーマは、読者にはあまりピンとこない場合が多いです。創作の難しいところであります。

 

 

遠藤徹 新連載小説 『血みどろ博士』(第04回) pdf版 ■

 

遠藤徹 新連載小説 『血みどろ博士』(第04回) テキスト版 ■