第2回 辻原登奨励小説賞受賞作 寅間心閑(とらま しんかん)さんの新連載小説『再開発騒ぎ』(第02回)をアップしましたぁ。『再開発騒ぎ』はファンタジー小説的な外見を持っていますが、それがグッと現実の痛みに食い込んでくるところが魅力です。

 

 恋のはじまりには、妙なスピードが付きものだ。世間の実態は分からないが、少なくとも僕にとっては。

 何度か顔を合わせ、互いの名前を覚え、胸が張り裂けそうになり、とうとう二人きりで出かけ、終電の時間を忘れて会話と酒に溺れ、朝、本当に胸が張り裂ける。それが、恋のはじまりだ。

 彼女ともそうだった。半月もかからなかった。

 女優の卵と絵描きの卵は、ものすごいスピードで恋におちた。おちる、というのは正しい言い回しだと思う。上昇する時に、あんなスピードは出ない。ああなるのは、落下する時だけだ。

 

これはいわゆる私小説の書き方ですが、作家と作品の間に距離がある。作家の方が作品世界よりも上位審級にいるといふことです。プロも含めて私小説は作家が作中の〝私〟の心理と一体化することだと漠然と考えている作家が多いですが、そうではありません。作家が作中の私を相対化していなければ、優れた私小説にはならないのです。

 

この作家と作中の〝私〟との距離をどんどん拡げてゆけば、いわゆる大衆小説の書き方も会得することができ、かつ最初から大衆小説の書き方に慣れた作家とは違う書き方を身につけることができます。『再開発騒ぎ』ではどうしようもなく〝落ちる〟ことの愉楽と、〝昇る〟ことの苦しさが十全に表現されているのですぅ。

 

 

寅間心閑 新連載小説『再開発騒ぎ』(第02回) pdf版 ■

 

寅間心閑 新連載小説『再開発騒ぎ』(第02回) テキスト版 ■