山田隆道さんの連載小説『家を看取る日』(第09回)をアップしましたぁ。今回から再び話者が新一さんに戻ります。『家を看取る日』は大阪の実家を継ぐこと、つまり家を中心にして、そこでの家族の心のざわめきを多角的に描き出そうとする作品です。

 

 「新ちゃんさ、さっきお義父さんの前では『しばらく会社は安泰だね』なんて言ってたじゃん。なんで、そういう嘘をつくの? 思ってもないこと言うの?」

 「別にええやん、それくらい。人としてのマナーやろ。ああいう葬祭関連のことはお父さんが長年やってきたことで、向こうがプロやねんから、素人の俺がちょっと取材したことあるからって偉そうなことを言ったら失礼やん」(中略)

 その後、僕がどんな理屈をこねても、亜由美は納得してくれなかった。

 亜由美いわく、僕のそういうところは今に始まったことではないらしい。大阪で父と同居するようになってから、ずっと僕の言説の変化が気になっていたという。父の前では猫をかぶる夫、本心とは異なることを口にする夫。それが亜由美には気持ち悪いという。父の太鼓持ちみたいで滑稽に見えるという。

 もちろん、僕も気づいている。父の前ではどこか自分を偽っている、別の人格を演じているという自覚があるから、決して居心地が良いわけではない。(中略)

 「そんなこと言ってるから、いつまでもお義父さんに子供扱いされるのよ」

 その夜、亜由美が発したいくつもの言葉の中で、これが特に心に残った。

 

前からちょいと感じていたのですが、大阪のお父さんとお母さんの描写はかなり魅力的です。特にお父さんは「あれしてこれしてそれやな」で会話が済んでしまふやうなお方です(爆)。ただそれは決して大阪特有の事情ではない。田舎と都会、あるいは旧世代と新世代の差異です。親と子には精神的、または社会的価値規範に決定的な断絶がある。家を継ぐといふことは、そういった差異や断絶を乗り越えることでもあるのでせうね。

 

 

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山田隆道 連載小説 『家を看取る日』(第09回) テキスト版 ■