露津まりいさんの新連載サスペンス小説『香獣』(第15回)をアップしましたぁ。並外れた嗅覚を持つ謎めいた青年、十樹の行動の秘密がじょじょに解き明かされてゆきます。謎の糸が緊張感をもって持続し、複数の糸が絡まり合う露津さんらしひ物語展開です。十樹は野生児のような青年ですが、高貴な感じも漂います。魅力的なキャラクター設定ですなぁ。

 

 「わたしの名前は知ってる?」(中略)

 「フ、ヨコ」

 そうよ、と芙蓉子は言った。「どんな字を書くか、わかる?」

 サイドテーブルからメモ用紙とペンを持ってくると、芙蓉子は書いてみせた。

 十樹はそれをしばらく眺め、ボールペンを握った。気のせいか、以前より持ち慣れたような手つきだ。(中略)。

 十樹はメモ用紙を捲り、繰り返し書いている。

 芙蓉子。

 何度目かにまとまり、メモ用紙の中央で名となった。文字らしく、点や払いのいちいちに意味が込もっている。

 芙蓉子、と、ふいに耳元で囁かれたような軽い眩暈を覚えた。

 

こういった箇所に、『香獣』といふ小説の魅力があるのではなひかと不肖・石川は思います。露津さんの作品は単純なサスペンス小説ではなく、心理サスペンス小説です。物語が進むにつれて、主人公と主要登場人物たちの心の奥底が、彼らが意識していないレベルでつながってゆく。今回の主題は〝香り〟であり、なおその気配が濃いやうに思います。

 

 

露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第15回) pdf版 ■

 

露津まりい 連載サスペンス小説『香獣』(第15回) テキスト版 ■