星隆弘さんの荒木経惟論『荒木経惟ポラロイド写真作品集『結界』論』をアップしましたぁ。星さんの、荒木さんのポラロイド写真についての批評第2弾です。ポラロイド写真集『結界』は2014年10月にeyesencia(アイセンシア)さんから刊行されました。星さんは「そこで展示された荒木の作品は、ポラロイド写真をカッターで二つに切り裂き、別々の写真の断片を貼り合わせたものだった。総数500点以上にも及ぶという作品の中から、本作のために128枚が選別された」と書いておられます。

 

星さんはこの写真集について、「写真が写し取ったものは、荒木にとって二つの世界であるとは限らない。ポラロイド写真の一定の白枠は文字通り世界に対するフレームである。フレーム内に収まった光をはるかに上回る光量が世界には満ちていて、そのフレームが機能した一瞬間はすでに去っている。・・・写真対総体としての世界・・・は、しかし、光景の遺構でしかない。総体としての写真が収めようとして収まりきらないものと、一枚の写真が写し取ろうとして隠してしまったものとは、拡大鏡で覗いた最小倍率と最大倍率の世界のように、同一なのである。荒木の視線はマクロとミクロの世界を同時に欲望している。その重なり合った視線の再現が、本作なのではないか」と批評しておられます。

 

どの芸術ジャンルでも新しい試みの幅は狭いものです。荒木さんは地下鉄の乗客を隠し撮りした写真集の刊行を考えていたのですが、ウォーカー・エヴァンスに同じ試みがあることを知ってやめたとどこかで書いておられました。またポラロイドを使った前衛的試みでは、すぐにデビッド・ホックニーが思いつきます。彼は何千枚もの小さなポラロイド写真を組み合わせて自宅プールを再現しました。スターン・ツインズは写真を引き裂いてスコッチテープで貼り付ける作品で有名です。ただ荒木さんにはもう新しいことをしようといった意志はないでしょうね。新しく見えても、あるいは誰かが同じような試みをすでにしていても、現在の荒木さんの作品試行は彼の確固とした思想に支えられています。

 

星さんが書いておられるように、荒木さんは「写真対総体としての世界」を表現しようとなさっていると思います。それは「マクロとミクロの世界を同時に欲望」しており、「その重なり合った視線の再現」としてポラロイド写真があります。つまり荒木さんは写真そのものです。荒木さんは「わたしは写真だ」と言う権利があるでしょうね。彼の作品はもちろん、その仕事に対する姿勢も、荒木さんが写真そのものであることを示唆しています。こりは恐るべきことであります。

 

 

星隆弘 荒木経惟論 『荒木経惟ポラロイド写真作品集『結界』論』 ■