小松剛生さんの連載ショートショート小説『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第07回 忘れまじた/昼休み2012/理由工場アルペジオ』をアップしましたぁ。最初の『忘れまじた』は「小説現代」さんのショートショートコンテストで優秀賞を受賞した作品です。このタイプの作品をほぼすべて出す(まとめる)といふことで、再録させていただきました。

 

 どうしてそんなことをするの。

 僕は言葉に詰まり、ただ黙ってその重たいどんよりとした時間経過の流れに身を任せるのみだった。(中略)

 「どうせ大した理由なんかないんでしょう」

 違う。

 僕は叫びたかった。

 母さん、僕は探しているんです。

 何かを。

 「何かって、何を?」

 それは。

 

『忘れまじた』の一節ですが、このやうな箇所がこの作品のクライマックスだと言っていいでせうね。主人公の僕は、書道の時間に「忘れまじた」と書いて先生に注意されるわけですが、「し」に濁点を打った「じ」が「何かって、何を?」の〝何か〟であるわけです。しかしそれを具体的に認識することはできない。でもこの作品で描かれたもどかしい雰囲気(アトモスフィア)は、誰もが経験したことがあるのではなひかと思ひます。

 

作家は常に変わり続けなければなりません。自分の環境はもちろん、世界もまた変わってゆくからです。それを敏感に察知して作品化してゆかなければ、どのジャンルの作家であろうとすぐに人々の記憶から消えてゆきます。

 

小松さんは時代の雰囲気を捉えている作家だと思います。ユーモア混じりにそれを叙述できる(相対化できる)能力をお持ちです。現代を醒めた目で見る能力をお持ちになっているわけで、その意味で同世代の作家たちより頭一つ抜け出ているでせうね。

 

ただ変化し続ける作家には、ある時期にしか書けない作品といふものがあります。小松さんは小説に関しては、ちょっと驚異的な筆力をお持ちです。作家には表現の基盤になる資質というものが抜けがたくありますから、『僕が詩人になれない108の理由・・・』タイプの作品をお書きになりながら、じょじょに変化してゆかれると思います。

 

 

小松剛生 連載ショートショート小説 『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第07忘れまじた/昼休み2012/理由工場アルペジオ』 pdf ■

 

小松剛生 連載ショートショート小説 『僕が詩人になれない108の理由あるいは僕が東京ヤクルトスワローズファンになったわけ』『第07忘れまじた/昼休み2012/理由工場アルペジオ』 テキスト ■