大野露井さんの第1回 辻原登奨励小説賞受賞作『故郷-エル・ポアル-』(第08回)をアップしましたぁ。日本も大きく変わり続けていますが、『故郷-エル・ポアル-』を読んでいると、日本とはまた違うヨーロッパの変化がわかりますね。スペインでもシエスタの風習がさびれ、街の労働者には移民が増えているやうです。国境線が消えることは当分ないでしょうが、EUが生まれたのはなにも経済的必要性からばかりでなく、ヨーロッパ人の移動・交流が盛んになっているためでもあるやうです。

 

 父のことばかり考えていたからだろうか、鏡を見て思ったのは、やはり僕は父に似ているし、以前よりもさらに似てきている、ということだった。初めてエル・ポアルを訪れたときの五歳の頃の面影も、あるにはあった。だが成長するにつれてはっきりと刻まれてきた陰翳は、まるで父の顔が僕の顔のなかから這い出して来つつあるようだった。

 

主人公がスペインを再訪したのは亡くなった父親の遺産を受け取るためですが、彼は「僕はもう父を過去として葬っていた。その意味では母よりも僕の方がずっと冷淡だった」と独白しています。しかし一方で「やはり僕は父に似ているし、以前よりもさらに似てきている、ということだった」とも独白しています。

 

『故郷-エル・ポアル-』は不在の父を巡る物語ですが、その不在あるいは欠落が、スペイン再訪の旅でどのように変化するのか、あるいは変化しないのか、または欠落がさらなる欠落として深まるのか、楽しみでありますぅ。

 

 

大野露井 連載小説『故郷-エル・ポアル-』(第08回) pdf版 ■

 

大野露井 連載小説『故郷-エル・ポアル-』(第08回) テキスト版 ■