大野露井さんの第1回 辻原登奨励小説賞受賞作『故郷-エル・ポアル-』(第07回)をアップしましたぁ。主人公の久しぶりのスペイン滞在の続きです。

 

 「それにしてもあなたって、顔を動かして話しているときはエル・ポアルの顔になるのね。静かにしているとちょっとわからないけど」

 いささか唐突に、英語教師は僕に向かって眼鏡の奥から観察の成果を述べた。カルメンと同じ歯並びをしているのだし、もちろん実の父親にも似ているのだから、僕がエル・ポアルの顔をしていることは不思議ではない。それでも英語教師が西洋とも言わず、スペインとも言わず、カタルーニャとも言わず、エル・ポアルに限定したことは興味深かった。エル・ポアルの血は、いったい何度の結婚で強化されているのだろうか? そしてまた、静止している僕の顔がエル・ポアルの顔でなくなるのはなぜだろうか? おそらくそれは西洋の顔ですらなくなるのだろう。躍動は僕の顔に西洋を、静謐は僕の顔に東洋を呼び寄せる。

 

このあたりが『故郷-エル・ポアル-』といふ作品のポイントの一つなのでせうね。特権的といえば特権的、中途半端といえば中途半端な位相に主人公は置かれているわけです。それは不肖・石川だけでなく、その文体を含め、『故郷-エル・ポアル-』を読むほぼすべての読者が感じ取ることでせうね。

 

ただま、詩や小説を読む人は、ある極端な存在の有り様、思考や生活の有り様を目撃したいわけです。作家の出自はそれぞれに特殊と言えば特殊なわけですから、別に日本文化にどっぷり染まる必要はない。つまり妙な言い方ですが、作品のテーマが〝中途半端〟に置かれていてもいっこうにかまわないわけです。でも〝中途半端といふこと〟に対する極点のやうなものが示されないと、優れた作品にはなり得ないことは言うまでもありませぬぅ。

 

 

大野露井 連載小説『故郷-エル・ポアル-』(第07回) pdf版 ■

 

大野露井 連載小説『故郷-エル・ポアル-』(第07回) テキスト版 ■