オール讀物 2014年 05月号 [雑誌]

 

 

 『オール讀物』五月号は「総力特集 いい男――それともダメな男?」でござーますのよ。いい男、好きよ~。文書だけじゃなく、いい男のグラビアがあるところが『オール』さんの素晴らしいところよね。でもお写真付きで紹介されているのが仲代達矢、三國蓮太郎、鶴田浩二様と、いささか高年齢化した『オール』の読者層を感じさせますわ。だけど火野正平様が入っているところが『オール』様の偉いところだわぁ。できれば若い頃の写真じゃなくて、BSで今放送中の「にっぽん縦断こころ旅」で自転車をこいでいる正平様のお写真にして欲しかったわ。

 

 「こころ旅」の正平様、ぶっきら棒で優しくてやんちゃで可愛いのよ。単なるお子様じゃ困りますけど、社会的なシステムに組み込まれながら、自由でいられる殿方って素敵だわぁ。虚勢を張っているだけなのか、本当に力があって自由なのかはすぐわかりますのよ。アテクシだって社会人でござーますからね。

 

 アテクシ、ときどき呑気な文章なんか書きますけど、そーとーに忙しいのよ。アテクシの世界は今日と明日のことで回っておりますの。経済ってそうなのよ。今日と明日のことで、昨日のことはすぐ忘れちゃうし、明後日のことは気にしませんの。そういう世界に比べると文学の世界は平穏でいいわぁ。そういうところがアテクシが『オール』なんかを読んでいる一つの理由かしらね。

 

 でも本を読まなきゃ知性と教養が身につかないなんて、一昔前のオジサマたちの思い込みよ。アテクシですら、本を読んでいればよかった時代の皆様方と違って、新しく覚え、身につけなければならない知識や技術がほとんど無限にありますの。一日働いてご飯を食べてお風呂に入ったら眠くなるんだから、人間の活動には自ずと限界がござーますわ。知的活動が分散される時代に、読書の時間が減るのは当たり前のことよ。アテクシの場合、小説を読むのはマンガなどの娯楽がいまひとつしっくり来ないからという理由だけですわね。そういう意味でアテクシは、だいぶ昔の人なのかもしれませんわ。

 

 「ハルコさん、どうしたんですか。こんな時間に」

 「ちょっとオ、すぐうちに来てよ!」

 受話器の向こうから、ただならぬハルコの声がした。

 「いったいどうしたんですか」

 「今、今・・・・・・うちに帰ってきたのよ。そうしたら・・・・・・」

 ここでしゃっくりのような音が出た。

 「空き巣に入られてたのよッ! ひっく」

(林真理子「ハルコ、セックスについて語る」)

 

 今月号には「女流作家、春風駘蕩」というくくりで林真理子先生のハルコシリーズが掲載されておりますの。大学の同級生の菊池いずみと大江玲奈が飲んでいるところに、中島ハルコから電話が入ります。空き巣に入られたので、すぐ来てほしいという電話です。いずみと玲奈は急いでハルコのマンションに向かいます。玲奈は離婚しており、いづみは独身ですが不倫経験のあるOL、ハルコは離婚歴のある独身実業家です。そこで女三人の露骨な――と申しましても林先生の作品ですから、セックスについての露骨なお話というよりも、セックスを含む女の本音が語られるわけでござーます。

 

 ハルコの空き巣被害額はだいたい七千二百万円。高価な宝石だけを狙ったプロ窃盗団の仕業です。取り調べに来た刑事は「彼らは盗んだものはバラバラにして、すぐに海外に持ち出すんですよ」と言います。ハルコの宝石はもう戻って来ないだろうということです。それを聞いたハルコは、「宝石は女の歴史なのよ。買ってくれた男や、買った自分の思い出も入ってるの」と激しく動揺します。ふだんは気丈な女実業家であるハルコが動揺しているのを、いづみはちょっと滑稽に感じます。ハルコは想像していたよりずっとケチな女だったんだといづみは思うわけです。でもそれでは小説になりませんよね。

 

 「(前略)ハルコさん、もし、家に帰った時に誰かがいて、ナンカされたらどうしますか?取り返しのつかないことになったはずですよ」

 「何言ってんのよッ」(中略)

 「強姦なんて十五分か二十分、目をつぶってりゃ済むことじゃないの。だけど宝石は一生なのよ。盗られたら一生ないのよッ」(中略)

 「ハルコさん、それ、本気で言ってるんですか」

 「もちろんよ!」(中略)

 「そんなこと、本気で言う女の人って信じられない」

 「そうかしらね。少なくともここに一人いるけど」(中略)

 「あの、中島さん、そういう発言はしない方がいいですよ」

 今まで黙って二人のやりとりを聞いていた玲奈が初めて口を開いた。

(同)

 

 強姦うんぬんのお話は、小説をスムーズに進めるための小道具ですから、殿方は本気にしないでいただきとうござーますわね。ハルコといづみの宝石談義に玲奈が割って入るところから小説の本題がスターとします。玲奈は少女の頃に従兄に性的悪戯を受けた過去があり、そのせいでセックスの快感を得られない、セックスに対して積極的になれないのだと告白します。玲奈の告白に対するハルコの言葉はあいかわらず醒めたものです。ハルコは生活の中でのセックスの必要性を認めながら、それをぜんぜん重視していないんですね。

 

 「(前略)仕事をしてる女は、夜はぐっすり眠りたいものよ。まあ、たまには恋人としてもいいか、って思う程度であっち方面は充分じゃないの。(中略)愛人に自分の子供を虐待されて死なせちゃう女っていうのは、たいていセックスが好きで好きでたまらないのよ。(中略)玲奈さんはこういうバカな女の一人になりたいわけ?」(中略)

 「あの、私はふつうにセックスの楽しさをもっと知りたいんですよ。(中略)自分の新しい面を見てみたいっていう気持ちをどうしても捨て切れないんです」

 「はい、はい・・・・・・。いつもの自分探しってやつですね」(中略)

 「まあ、若いんだからとことんやってみるのもいいかもしれないわね。でも最近の若い男は、あっち方面の能力劣ってるから、プロに頼まなきゃダメよ」

 「えー、プロですか」

 「そりゃ、そうでしょ。あなたの性感帯やら性的能力っていうのを開発してもらいにいくんでしょ。だったらプロが一番。男だって必要な時はプロに頼むんだから、女だって同じことをしなさいよ」

(同)

 

 ここで語られているセックスのプロの男うんぬんの話も、小説を進めるためのとりあえずの言い切りであり、真理子先生の性を含む男女平等論が語られているわけではござーません。ハルコは興味本位で一度食事をしたことがあるAV男優を紹介してあげましょうかと言いますが、玲奈は「私、やっぱりいいです」と断ります。玲奈が保守的で臆病だからという理由では必ずしもないでしょうね。

 

 「女は男の下半身とセックスするわけじゃないの。男の全体とセックスするのよ。頭も心も込みでね。頭も心もよくてセックスもうまい、なんて男はめったにいるもんじゃない。だったらどこかでこっちも我慢して、イッたふりしたりして楽しませてやればいいの。そしてこっちも楽しむの。(中略)あなたたちのおかげで、今日のショックを少し忘れることが出来たかもしれない・・・・・・。だけど今日から宝石のない生活が始まると思うと・・・・・・。別のものを狙ってもらった方がよかったかもしれないって思うわねぇ・・・・・・」

(同)

 

 小説の最後は引用のハルコの言葉です。真理子先生、やっぱり女心をわかっていらっしゃる。今号には「大アンケート 女流作家たちのいい男」が掲載されていますが、美男子俳優さんを選んでおられる方は少ないですねぇ。なかには温水洋一、パブロ・ピカソなんかをいい男に選んでおられる作家さんもいらっしゃいます。そりゃ~超の付くブ男だと女だって一瞬は「引くッ」てなるわけですが、女は男を美醜とかセックスが強い弱いで選んでるわけじゃございませんの。そのあたりが大衆小説誌で官能小説特集なんかを組んだ時の、アテクシの楽しみと異和感になっておりますわねぇ。殿方作家のお書きになる性は、たいていは舞台で上演される見せ物みたいなものよ。

 

 「女は男の下半身とセックスするわけじゃないの。男の全体とセックスするのよ」という真理子先生の言葉には、深く同感できるわけですが、もうちょっと進めると、女は男を通して別のなにかを見ていると言えるかもしれませんわ。それってどこにも存在しない理想の男に近いかもしれませんわね。そこに美醜とか性とかお金は存在しませんの。男と呼ばれるあるイデアのようなものかもしれませんわ。だからハルコさんが宝石に執着するわけですの。ハルコさんが本当に執着してるのは、モノでも男でもなく、女にとってのイデアではないかと思いますの。それがたまたまこの作品では宝石で表現されているということですわ。

 

 この女の執着、イデアを突き詰めていくと、多分純文学と呼ばれる作品になってゆくのでしょうね。それはそれで楽しゅうござーますけど、読んでいてワクワクドキドキするその手の純文学小説ってござーませんわね。また真理子先生の「ハルコ、セックスについて語る」は雑誌の特集意図に応えて書かれた一口話的作品ですが、こういった作品をサラリと読んで「ああ面白かったぁ」と思えなければ、大衆小説雑誌の良い読者ではいられませんことよ。

佐藤知恵子