遠藤徹さんの新連載小説『贄の王』(第01回)をアップしましたぁ。遠藤さんは東京大学文学部英米文学科卒業後、農学部農業経済学科を卒業された異色の作家です。現在は同志社大学言語文化研究センターの教授も勤めておられます。英文学科を卒業されたあと農学部に転入されたのは、文学というあやふやで虚業じみた学問だけでなく、地に足がついた実業を学びたかったからのやうです。お気持ち、わかるなぁ。なお文学金魚で『偏態パズル』を連載中の三浦俊彦さんとは、学生時代からのお知り合いださうです。遠藤さんにも、ちょっと特殊作家という雰囲気がありまふね(爆)。
遠藤さんは『姉飼』で第10回日本ホラー大賞を受賞されてデビューしました。ホラー小説の書き手として活躍されていますが、作家の資質としてはちょいと路線が異なるやうな。プロ・ホラー小説作家は、怖ひという人間の根源的感情を揺さぶることを目的とし、そこに現代的意匠をかぶせていく。神社、お寺、井戸、トイレなど、神や死者、あるいは穢につながる古典的な場所を小説の舞台とするだけでなく、インターネットやスマホなどの不気味さも巧みに活用します。プロ・ホラー小説作家は、人間が何を怖がるのか、それをどう効果的に表現すればいいのかを、毎日毎日考え続けてそれを作品化しているわけです。しかし遠藤さんにはそのような姿勢がない。もちろん遠藤ワールドはホラー小説にも援用できますが、本質的には世界を描く作家だと思います。
ぐるっと世界が動く。遠藤さんの小説にはそんな雰囲気があります。もちろん小説ですから主人公がいて、それを取り巻く様々な人物が配置されています。でも主人公の物語というよりは、主人公を中心として世界を描く、その変容を明らかにしてゆく作品だという傾向が強い。遠藤さんの小説世界のイメージは極めて明瞭です。何かが〝見えている〟ような書き方をされる。現在の小説ジャンルの区分、つまり書店の棚のどこに作品を並べるのかといった基準で言えば、遠藤さんの作品はホラーやファンタジー小説に分類せざるを得ないでしょうね。しかし遠藤さんの小説は、本質的には既存の小説ジャンルには属さないのではないかと思います。そういう意味ではとても文学金魚好みの作家でありまふ(爆)。世界の中で、自分の居場所を要求するユニークな作家、不肖・石川は大好きです。遠藤さんには思う存分書いていただこうと思ひます。
■ 遠藤徹 新連載小説 『贄の王』(第01回) pdf版 ■
■ 遠藤徹 新連載小説 『贄の王』(第01回) テキスト版 ■