Ⅺ 葉
大野露井
いま、話をはじめて三秒
これを二十回くりかえせば一分になる
いま、話をはじめて三秒
いま、話をはじめて三秒
だがあなたは最後まで聞かない
あるいは読みとばしてしまう
もうすぐ時間切れだと思うと
何をしたらよいかわからなくなるから
もうすこし怒ればよかった
私にもあなたにも
そうすれば最後には
静かでいられたはずなのに
私はただ水の流れに葉を浮べて時を測っている
計っている、命の長さを
図っている、愛の結末を
量っている、舌の重さを
謀っている、毒を盛るすべを
諮っている、天使たちの会議に
すべての計算が、計算の無意味を証明することを目指すように
すべての言葉が、すでに使われていることを確認する快楽のために
すべての地図が、道を踏み外す道具にしかならないことを知るために
すべてのことを、もう二度としなくてすむように
そしてもう一度、最初から始めることができるように
あなたと、何度でも繰り返せるように
私はただ水の流れに葉を浮べて時を測っている
いま、話をはじめて一分
これを六十回くりかえせば一時間になる
いま、話をはじめて一分
いま、話をはじめて一分
だがあなたはついて来られない
あるいは耳をふさいでしまう
私はいつになく早口で
世界にもそうであることを期待するから
いっそ逃げればよかった
あなたからも私からも
そうすれば最後には
逃げずにいられたはずなのに
私はただ水の流れに葉を浮べて時を測っている
計っている、指の長さを
図っている、空の角度を
量っている、韻の重さを
謀っている、残酷な恋文で
諮っている、本を読むひとびとに
すべての思い出が、未来の痕跡であることに気づくまで
すべての出会いが、別れに保証されていることに打ちひしがれるまで
すべてのさだめが、書き換えられてもあわてずにすむように
すべてのことを、目をつぶってできるように
そしてもう一度、懐かしく味わえるように
あなたと、大樹に生えかわれるように
私はただ水の流れに葉を浮べて時を測っている
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■ 予測できない天災に備えておきませうね ■