ラモーナ・ツァラヌさんの『青い目で観る日本伝統芸能』『No.009 早替わりの至芸―前進座公演『お染の七役』』をアップしましたぁ。ほんの数日前に行われた国立劇場での前進座公演『お染の七役』を取り上げておられます。タイムリーですねぇ。河原崎國太郎さんが、お染・久松・竹川・小糸・お六・貞昌・お光の七役を一人で演じておられます。歌舞伎ならではの驚異的な早替わり芸です。
ラモーナさんは河原崎さんの早替わり芸について、『最高潮は・・・隅田川のほとりで待ち合わせをしたお染と久松が同時に現われる場である。・・・男と女をいったいどうやって同時に演じられるのかといえば、早替わりは観客の目の前で行われるのだ。観客は瞬きをするうちに、役者は傘のような小道具を使って、扮装を変える。まるで錯覚現象を目の当たりにするかのようだ』と書いておられます。
お客さんはこの舞台の見所が早替わりだと承知しています。だから早替わりは『観客の目の前で行われる』わけです。種明かしのような無粋なことはしませんが、『傘のような小道具』に隠れたら早替わりが始まることを示した上で、なおかつお客さんが驚くようなスピードと鮮やかさで早替わりをやってみせる。これぞ〝芸〟といふ感じであります。
ラモーナさんはまた、『歌舞伎には・・・演劇理論に逆らう何かが潜んでいるようだ。・・・最初から最後まで一つの役に執着して、徹底的にその人物になりきるというより、・・・一つの役から次の役へと容易に滑り込むことができるようにできている。重々しい雰囲気に落ちない役作りにこそ歌舞伎独特の魅力があるといえる』と書いておられます。
確かに歌舞伎役者は、お能の役者はもちろん、現代劇の俳優に比べても〝軽い〟。歌舞伎には役柄の解釈とその視覚化(演劇化)よりも重要な原理があると考えた方がよさそうです。重い内容や解釈といったものは、歌舞伎という芸術とは相容れないのかもしれません。卓見だと思います。
■ ラモーナ・ツァラヌ 『青い目で観る日本伝統芸能』『No.009 早替わりの至芸―前進座公演『お染の七役』』 ■