ラモーナ・ツァラヌさんの『青い目で観る日本伝統芸能』『No.008 心の闇を描く能 ―〈鉄輪〉』をアップしましたぁ。4月11日に宝生能楽堂で行われた銕仙会定期公演『能 鉄輪(かなわ)』を取り上げておられます。ラモーナさんは『能演目の趣は実は幅広くて、幽玄美への期待を裏切るような謡曲も少なくない。その中の一つは〈鉄輪〉だ』と書いておられますが、いわゆる一般にイメージする能よりもおどろおどろしく、生臭い出し物です。
夫に離別された女が貴船明神に参拝し、恨みを晴らすために鬼になる方法をご神託によって得ます。一方、夫の方は夢見が悪く、陰陽師の安倍晴明に祈祷を頼みます。清明は鬼と化した前妻の生霊が取り憑いていることを知り、呪術によって鬼を人形の方に向かわせます。鬼は人形をさんざん打ちすえたあげく、清明によって追い払われるわけです。一般的なお能と違い鬼は成仏しません。ちょっと後味が悪いといふか、もやもや感が残る演目です。
それをラモーナさんは、『〈鉄輪〉の女は実は可哀そうに見える。・・・主人公は自分の感情を抑えきれない普通の女であり・・・自分を裏切った男やその新妻に呪いをかけて、復讐しようとする・・・が、実際には彼女には対立する相手がいない。・・・鬼になった女が自分の怒りを充分に発散できない状態で演目が終わるのだ。これこそが〈鉄輪〉の女の悲しい成れの果てだといえる』と書いておられます。ひたすら現世の妄執を描いた作品なのです。
またラモーナさんは、『この作品の見どころのひとつは能面である。・・・〈鉄輪〉の上演の際、激情で固くなった表情を持つ「橋姫」という能面が使われることが多いが、今回は「早鼓」という演出の種類に合わせて、「是閑」(ぜかん)という生成の面が使用された。この面は嫉妬心よりも悲しい雰囲気の方が目立ち、「生成」の面としては美しい』と書いておられます。お能ではどの能面を選ぶかも重要な演出要素です。もち不肖・石川は、パッと見てどういう種類の能面が使われているかなどわかりません。ラモさん、すごいですぅ~。
■ ラモーナ・ツァラヌ 『青い目で観る日本伝統芸能』『No.008 心の闇を描く能 ―〈鉄輪〉』 ■