金井純さんのBOOKレビュー『絵のある本のはなし』『No.009 Mud Book』をアップしましたぁ。前衛作曲家ジョン・ケージと、デザイナーのルイス・ロングによる絵本です。縦横13.5センチのほぼ正方形の小さな本です。〝泥のパイ〟を作るためのレシピ本であります。
ジョン・ケージは前衛音楽家といふより前衛音楽の創始者です。前衛音楽は本質的には彼から始まったと言っていいと思います。確信を持って従来の音楽を壊し再構築した作家です。無音の『4分33秒』に代表されるように、現代音楽はケージの試みによって〝ゼロ〟に至り着いた。現代絵画はデュシャン以前と以降に分類することができますが、ジョン・ケージも同じでしょうね。現代音楽はケージ以前と以降に分類できると思います。
金井さんは『この小さな絵本には、「ものを創る」ということについて考えさせる要素が詰まっている。泥のパイの作り方を解説していると、「食べる」という目的から外れ、「創る」こと、そして出来上がったものの「形状」に意識がずれてゆくのだ。もちろんそれは、“ アート ” というものに接近してゆく』と書いておられます。恐らくそのとおりでしょうね。ケージの芸術は難解に聞こえ(見え)ますが〝裏〟はない。ケージの芸術に深淵な思想を読み取ろうとすると、かえって本質を掴み損ねると思います。
最近、佐村河内守さんのゴーストライター問題が起こりましたが、創作の苦悩を強調したがる作家はなんかうさん臭いんだなぁ。作品の弱さに目くらましをかけている感じ。それに一作ごとに七転八倒していては継続的な仕事はできません。すべての作家が創作で苦労していますが、その努力が評価されるとは限らない。そういう厳しい世界に長年身を置いていれば、〝大変だぁ〟と言うこと自体、あほらしくなると思います。仕上げた作品の評価は気になるでしょうが、作家は本質的に、今取りかかっている作品と未来の品にしか興味がないと思います。
ケージは人前ではいつもニコニコしていました。デュシャンも何を聞かれてもポーカーフェイスだったなぁ。彼らは世の中に送り出した自己の作品に対して、ほとんど他人事のような客観的姿勢を貫いていました。作家と作品の関係はそんなものぢゃないかなぁ。作家は創作の可能性が尽き始めると、しきりと自己の過去作品について語りたがる傾向がありますね(笑)。
■ 金井純 BOOKレビュー 『絵のある本のはなし』『No.009 Mud Book』 ■