長岡しおりさんの文芸誌時評 『No.008 小説すばる 2013年07月号』 をアップしましたぁ。池井戸潤さんの 『陸王』 を取り上げておられます。足袋メーカーの社長が、社運をかけて新プロジェクトを発足させるお話です。長岡さん、『経済活動というのは、本質的に・・・理念でも情念でもない、お金の話にすぎない・・・その経済活動が何らかのロマンや観念に結びつくビジネスというのは、やはり極めて限られてくる。これについては 〝文学〟 の要求はとても高い』 と書いておられますが、その通りでしょうね。
売れる小説が 〝ネタ勝負〟 になってきているのは確かです。この傾向は今後も続くと思います。むしろ情報化時代の必然的な流れです。一昔前は 〝情報の囲い込み〟 によって特権的知が保証されていた面がありますが、現代はその逆です。〝情報の公開〟 がビジネスに繋がっている。もちろん単なる暴露ではありません。どう情報を公開するのか、その手法の鮮やかさと効果を計算できる知性が、情報開示者を特権的地位に押し上げる。情報ネタ勝負ではありますが、情報公開手法がネタを生かしも殺しもするわけです。
ただ情報化社会になったからと言って、文学の基盤までがドラマチックに変わってしまうわけではありません。文学が文学であるためには、情報だけではないプラスアルファの要素が必要です。長岡さんが書いておられるように、プラスアルファ要素に対する 『 〝文学〟 の要求はとても高い』。それが何かがはっきりするまでは、もう少し時間がかかるでしょうね。
誰もが感じているように、現在は 20 世紀的な知がほぼ完全な終焉を迎え、21 世紀以降の新たな知の構築に向かう過渡期です。この過渡期に情報の可視化・ビジュアル化がもの凄い勢いで進んでいます。でもそれはすぐに当たり前のトレンドになります。そうなれば必然的に情報公開に伴う当初の驚きは失われ、文学固有の問題が見えてくると思います。
■ 長岡しおり 文芸誌時評 『No.008 小説すばる 2013年07月号』 ■