谷輪洋一さんの文芸誌時評『No.003 小説新潮 2012年5月号』をアップしましたぁ。『小説新潮』さんは、先月4月号が通常の縦書き表記の小説を掲載した部分と、後ろから読む横書きの『尾崎豊NOTE』を1冊にまとめた形式でした。今回も通常の『小説新潮』部分と、新潮社が今小説雑誌では、イチオシで売ろうとしている『Story Seller』をドッキングさせています。
『Story Seller』は文庫本形式の雑誌で、不定期で刊行されています。新潮社HPの『Story Seller』最新号の紹介には、「大好評アンソロジー第3弾のお届けです。(中略)オール読みきり、読み応え抜群の作品を収録します。エッセイあり、ミステリあり、笑える話や、ホロリとさせる恋愛小説あり。あらゆる世代の方々にご満足いただける読書体験をお約束します。本とともに過ごす、至福の時間をお楽しみください」とありました。
『yom yom』もそうですが、新潮社さんは文庫本ムック形式の雑誌が好きですねぇ。書店に行かれればわかると思いますが、新潮社さん、文庫本ではむっちゃ強い。書店の文庫本コーナーのいい場所をおさえておられます。そういう会社の歴史的財産を活用して、雑誌と単行本との中間的出版物を売ろうという戦略のようです。
この方式だと、「ど~せ雑誌掲載の作品は単行本になるんでしょ」と雑誌を買わない読者には、単行本とだとアピールすることができます。「雑誌には書かせてくれても、ど~せなかなか単行本にはしてくれないんでしょ」といふ著者には、こりは単行本ですよ~とアピールすることができます。新潮社『Story Seller』第2号のHP説明には「日本作家界のドリームチームが再び競演」ともありましたが、それは読者が判断すれば良いことです。テレビや映画の番宣と変わりませんから。
どの世界でもそうですが、業界の仕組みがわかってくると、だんだん夢がさめるといふか、ザラザラとした現実だけが見えてくるところがあります。文学界も同じであります。賞も雑誌での書評も、基本は自社商品の宣伝ツールであり、その上に「文学界全体のために」といふ大義名分がなんとなくまぶしてあります。いえ、それでいいと思うんですよ。でもその仕組みがだんだん誰にでもわかってきてしまっているのが、問題といえば問題かな。
夢があった方がいいなぁと思うわけであります。作家さんに限りませんが、どんな創作者でも、版元の都合で振り回されていたら萎縮してしまいます。創作者は好き勝手やったらいいんじゃないでしょうかねぇ。普通じゃない人が創作者になり、普通じゃない作品を書くのを僕らは期待してるわけですから。作家が版元や編集者から「夢見てんじゃねぇよ」と叱られるようになったら終わりだな。