Ⅱ 天
大野露井
咳がとまらない
どうにもとまらない
死後にのぼってゆくという
戦場にたどりつくまで
目印は縦横に刻まれた道
水が飲みたい
あんなものには知らんぷりして
見なかったことにしよう
柄杓ですくった龍の涎と
天の河に垂れ流す汚物
金が採れると評判の窟で
寒さのなか真白な太い息を吐く
仰向けば刺繍された剣や大鎌
夜這のあとのわびしさが
あっという間に頭上を飛び越えて
火からつかみ出した手紙の灰を
螢の灯りで組み合わせてみる
あの夏の日の日ざかりの森
あのとき囁いたのは天使だったか
はたまた烏の独りごと
樹を植えなければならない
その樹の下で黙して語らず
喪に服するのは誰のため
もくもく入道雲が立つ国は
今日も雷の洗礼を受ける
土に還ることを恐れるにはおよばない
どうせいつかは知る遊戯
どじょうよろしく泥にまみれて
丑三つ時を心待ちにする身
さあだからもう怒りを鎮めよ
天の王と海の王とが
骰子を振っては笑い転げている
もう遠くまで来すぎて見ることができないので
そろそろ帰ろうと思う
いまこのときからここが行き止まり
すっかり変わってしまった
人工的な装置が告げる日付
ただそれだけを合図に赤の他人になってしまう
だがもうじゅうぶんに楽しんだ
曰くもって瞑すべし
絶え間ない運行の果て
やはり僕には太陽のそばがあっている
夜になると凍えんばかりだが
すぐに熱く激昂するので
またつぎの相手を見つける気にもなれる
そうして気永に岩場で日の出を待ちながら
寄せては返す月の下の波を見て
誰にも聞かれないようにこんな質問をする
僕にも月経があったなら
潮の満ち引きを肌で感じることができたろうか
縦書きでもお読みいただけます。左のボタンをクリックしてファイルを表示させてください。
■ 予測できない天災に備えておきませうね ■